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【次世代ディスプレイはこうなる! PART2 レポート Vol.1】注目集まる有機EL


2000年3月8日

3月1日に半導体産業新聞主催のセミナー“次世代ディスプレイはこうなる! PART2――有機ELの実用技術と可能性――”が開催された。半導体産業新聞は、半導体産業の専門誌で、(有)産業タイムス社が発行している。これは、2月24日の“次世代ディスプレイはこうなる! PART1――強誘電性/反強誘電性液晶の可能性――”に続いてのもの。

液晶を超える可能性をもつ有機ELディスプレイ
有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイは、ここ2年ほどで急速に開発が進み、液晶業界からも無視できない存在となった。自発光型なのでバックライトが不要となり、極薄型のディスプレイが実現する。しかも液晶よりはるかに高速な応答性能をもつ。また無機ELよりも駆動電圧が低いので消費電力が抑えられ、モバイル用途を中心に幅広い応用が期待されている。発光材料がすべてを握るといっても過言ではないが、輝度や寿命を改善した新材料の開発が進み、いよいよフルカラーで実用レベルのディスプレイが量産される見通しが立つまでに至った。

3月1日に開催された半導体産業新聞主催のセミナー、“次世代ディスプレイはこうなる! PART2――有機ELの実用技術と可能性――”では、各メーカー研究者からの最新動向の発表が行われるとあって聴衆も多く、非常に盛況であった。まずは概略をお伝えする。

次世代ディスプレイとして期待が高まる
有機ELは、LCDに対して数多くのアドバンテージをもっている。そのため、材料と製造工程の問題が解決されればすぐにでも各メーカーがひしめき合って市場を開拓してゆくものとみられている。IDCジャパンのコンポーネントセミコンダクターリサーチマネージャー、吉田広幸氏は、“次世代ディスプレイとして期待される有機ELの需要展望”と題した講演で、フラットパネルディスプレイ(FPD)市場だけでなく、CRTを含めたディスプレイ市場の将来展望を解説し、そのなかでLCDやPDPに並んで有機ELが期待されていると語った。

それによると、2003年には金額ベースでCRTとFPDの市場が逆転し、さらに2004年にはLCD市場がCRT市場を上回るという。そして複合化し、多様化してゆくモバイル機器ではカラー化が強く推進され、そのなかで有機ELは中小型ジャンルからLCDを置き換えるようにして普及してくるとみている。
このように、有機ELはアナリストからも大きな期待をかけられているが、本格的にディスプレイとして研究開発の俎上にのぼってから日が浅い。そのため、まだ現在は材料メーカーとパネルメーカーが開発を進めているものの、製造工程などに不安が残っている状況だ。今後は製造装置メーカーが、かなりの協力をしなくてはならないだろう。

TFT駆動で先駆ける三洋電機&イーストマン・コダック
現在、最も製品化に近い状況に位置するのは、昨年9月にフルカラー有機ELディスプレイを発表した三洋電機とイーストマン・コダックだろう。今回のセミナーには、三洋電機セミコンダクターカンパニー・セミコンダクター技術センター・ディスプレイ開発プロジェクト第一開発グループチーフの山田努氏が出席し、“有機ELディスプレイの現状と課題”と題して開発の現状を語った。

そもそも、有機ELディスプレイの研究を初期から手掛けていたのはコダックと、後述する出光興産だった。特にコダックは基本特許や多くの技術を保有し、有機ELの基礎研究では最先端といわれる。そして三洋電機は低温Poly-Si TFT LCD(以下LTPS)の技術を応用し、「エレショーに間に合えばすごいぞ、と言っていたのですが、まさか本当に間に合うとは思いませんでした」(山田氏)と、内部でも驚くほどの急ピッチで開発が進んだ。現時点では、材料面では赤色の発光効率が低い、青色の色度がNTSCから離れているなどの課題があり、また寿命も気になるところだ。そして量産のために、製造技術の確立を進めているという。実現すれば世界初の量産となるだけに、専用の製造装置など存在しないのだ。たとえ既存技術の応用であっても、試作から量産への道のりが遠いことを改めて考えされられた。

フルカラーを目指す各社の方向性
ほかのメーカーでも、フルカラーディスプレイを目指して開発を進めている。パイオニアでは有機ELディスプレイの製品化実績がある。カーステレオのディスプレイとして採用しており、1997年には単色を、1999年には4色表示のものを市場に投入した。さらに2000年には、携帯電話用ディスプレイとして採用される見込みだという。同社総合研究所ディスプレイ研究部・第二研究室室長・土田正美氏の「パッシブ型有機ELディスプレイの実用化とフルカラーへの展開」と題した講演では、フルカラーの実現に向けてのさまざまな技術課題について語られた。

フルカラーを実現するためには、RGBの3色を表示させなくてはならない。三洋電機とコダックでは、その3色を異なる発光材料で構成している。これは最も簡単な構造でエネルギー利用効率もよいのだが、各色の塗り分け工程が必要となるため、いささか高度な製造技術が必要となる。有機ELの発光素材はさまざまだが、有機物であるがゆえに扱いが難しい。半導体のように安易にエッチングを繰り返すことはできないのだ。三洋電機と同様、パイオニアでもパターンを実現するためにマスクを用いており、パッシブマトリクス方式で320×240ドットのディスプレイを試作している。

また、ほかの方法として検討されているのが、カラーフィルター方式と色変換方式だ。いずれも発光素材のパターニングを減らすことが大きな目的といえよう。カラーフィルター方式は、白色の発光素材を用い、それを3原色のカラーフィルターで変色させるというものだ。カラーフィルターの発想はLCDと同じだが、これを用いることで光の利用効率は1/3までに制限されてしまう。しかし、カラーフィルターはLCDで大量に用いられていることもあってコストが安く、また色彩のチューニングも容易となる。“TDKにおける有機ELディスプレイの開発〜白色発光有機ELディスプレイと多色化技術〜”と題した、TDK開発研究所研究主任・井上鉄司氏の講演では、フルカラーへの布石として白色EL材料の開発という技術的な挑戦の内容が語られた。

白色と言うのは簡単だが、光学の知識があれば、本来単色で発光する蛍光材料で白色を出し、さらにカラーフィルターで分光できるようにするのが難しいことは理解できるだろう。真の白色というのは、光のスペクトル全域で同じ強度の発光をさせなくてはならないからだ。人間の目で白色に見えるようにするだけでも、青+黄色など、2色以上の混色発光が必要になる。純粋な色再現を目指した単色EL材料では、スペクトルの幅が狭いほうが有利だが、白色を目指すには、逆に幅広いスペクトル幅をもった材料が求められる。

TDKでは、青+黄色の2層構造で開発を進め、高輝度で長寿命、かつ長期間にわたって色ずれのない材料開発を進め、おおむね目標をクリアする材料を作成できるようになったという。今後さらに寿命やスペクトル分布の改良が進められることだろう。

幅広いアプローチの素材メーカー
青色の発光を色変換層で変換し、3原色に対応した光を出力させる色変換方式は、色変換層の効率によって全体のエネルギー利用効率が左右されてしまうが、色変換素材は発光素材とは異なり、パターニングが容易だ。カラーフィルターと同様に色素分散方式などで製造できるので、かなりのコストダウンが期待できる。出光興産では、1973年と非常に初期から有機ELディスプレイの基礎研究を進めており、1997年には色変換法によるフルカラーディスプレイを試作している。もちろん、材料メーカーとして、ほかの方式に適した蛍光素材も開発しているが、同社では、フルカラーディスプレイの実現に色変換法を用いるのが有望としている。出光興産研究開発部表示材料プロジェクトの小藤武樹プロジェクトマネージャと川村久幸氏による講演、“有機EL材料開発の最新動向〜フルカラーディスプレイを目指して〜”では、LCDより材料に依存する有機ELディスプレイ事業を、材料メーカーとしてどのように取り組んできたかということを中心に語られた。

つまるところ、有機ELディスプレイの開発では、材料メーカーも自らの枠を越えてディスプレイそのものの製造工程まで踏み込む必要があるのだ。そのため、材料の評価についても真空蒸着装置などを導入して素子作成を行い、実情に即した特性を調べ、さらにその特性を発揮させるための「処方箋」まで提供するようになった。さらに、蛍光材料のデモンストレーションとして、実際にディスプレイの作成まで行なうようになったのだ。

今までの有機ELディスプレイ開発で、発光層に電極を設けただけの単層構成から、正孔や電子を輸送する層が設けられ、性能の向上とともに構造も複雑化してきた。現在では3〜4層が主流となっている。構造の複雑化はコストアップに結びつくとして、同社では再びシンプルな構造への回帰を目指している。今までは不可能と思われていたが、蛍光素材の効率が向上が著しく、再び実現のめどが立ったのだ。その最初のステップとして、発光層と電極の界面にセシウムドーピングを行なった3層構造の素子を試作し、4層のものに劣らない性能を実現しているという。

「本物になるには10年かかる」
以上のように、フルカラー有機ELディスプレイには非常にさまざまなアプローチがあり、まだどれが主流になるとも言いがたい状況だ。しかし、三洋電機の動きなどから、フルカラー有機ELディスプレイの製品化は目前だ。製品となってようやくわかることも少なくはない。その意味で、各メーカーの動きは見逃せないのだ。

また、ビジネスとしても課題は多い。かつてLCDがたどったように、収益性の低い市場になったりはしないだろうか。あり得ないこととは言えない。だが、素材ひとつをとっても、有機化合物には無数のバリエーションがあり、さらにその配合まで考慮すると、無限の可能性を秘めているものだ。ディスプレイそのものの可能性だって無数にある。「ディスプレイ技術は、本物になるには10年かかる。アクティブマトリクスLCDも、試作品からLCDの主流になるまで10年かかったのだ。一方、有機ELは、まだ日が浅いのだ」というIDC吉田氏の言葉が、本稿の締めくくりとしてふさわしいだろう。

(ケイズプロダクション 岡田 靖)


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